1974年式の日野KS390低床トラックは、日本の高度経済成長がひと段落し、オイルショックの影響が産業界を揺るがす最中に登場した中型トラックの一例として注目に値します。低床仕様(あるいは低床車)とは、荷台床面を可能な限り低く設計することで積み下ろしの利便性を高めたタイプの車両を指します。当時の物流業界では、効率的に大量の荷物を取り扱うニーズが高まっており、低床トラックは荷役作業の省力化や安全性向上に寄与したことから、多くの運送会社やメーカーの倉庫間輸送などで活躍しました。

日野自動車は、バスや大型トラックの分野で培ってきたディーゼルエンジン技術や堅牢な車体設計を活かし、信頼性の高い中型トラックを次々と送り出してきました。KS390もその一角を担い、排出ガス規制が徐々に厳格化され始めた1970年代前半の時流に合わせ、比較的クリーンな排ガス性能を有するエンジンを搭載していたとされています。排ガス基準や燃費性能に配慮しつつ、仕事車としての耐久性とパワーを両立させることが求められたため、エンジン設計や補機類には工夫が凝らされました。

また、KS390のキャビンデザインは、当時の日野トラックに共通する質実剛健さが目立ちますが、一方でドライバーの快適性にも配慮が施されていました。視界を確保しやすい大きめのフロントガラス、操作系の合理化、加えてシートのクッション性向上など、長時間運転による疲労軽減策が取り入れられていたのです。これは日本国内での長距離輸送が拡大し、トラックドライバーの労働環境に目が向けられ始めた時代背景を反映しています。
低床仕様の特長としては、積載時の重心が低く保たれるため走行安定性に優れ、荷役作業においてもフォークリフトなどが荷台に近づきやすい点が挙げられます。一方で、ホイールアーチ形状など車体設計が複雑化しがちで、通常の平床(フルデッキ)モデルに比べて製造コストがかさむ面もありました。しかしながら、都市部での集配や多頻度小口輸送といった用途にはきわめて適しており、日本の物流システムが多様化するなかで重宝されました。
総じて、1974年式の日野KS390低床トラックは、戦後の高度経済成長期を経て成熟期に差しかかった日本の物流を支えた中型トラックの代表的モデルです。厳しくなる排ガス規制や燃費意識の高まり、労働環境の改善要求など、当時の社会の変化に対応するための技術的・設計的工夫が盛り込まれており、その堅牢さと実用性を備えた低床構造は、現場の積み下ろし作業を効率化する上で大いに寄与しました。こうした点から見ても、KS390は時代のニーズに応えつつ、国産トラックの高品質化と多様化の流れを象徴する存在といえるでしょう。