1982年(昭和57年)に登場した日野自動車のK-FU633型全輪駆動トラックは、過酷な路面状況や悪天候下での走行を想定した特殊用途向けの車両として、当時の国内トラック市場において重要な位置を占めていました。全輪駆動(4WD)のシステムを採用することで、建設現場や林業、さらには山間部の輸送など、未舗装道路が多い環境でも高い走破性と安定性を実現できるのが最大の特徴です。このような機能性は、国土開発が活発だった1980年代初頭の日本において、インフラ整備や災害対策車両としても強く求められていました。

K-FU633型に搭載されるエンジンは、日野が培ってきた中型~大型ディーゼルの技術を継承しつつ、信頼性と耐久性を重視した設計が施されています。当時は排気ガス規制が強化され始めた時期でもあり、環境への配慮と燃費性能の向上を意識しながら、パワーとトルクを十分に確保するためのチューニングが行われました。結果として、長時間の連続稼働にも耐えうる冷却性能や、整備性を考慮したエンジンレイアウトが特徴となっています。

車体構造面では、フレームを強化し、頑丈なアクスルとサスペンションを組み合わせることで、全輪駆動時の高い駆動力を確実に路面に伝えることを可能にしました。さらに、キャブオーバー型の車体デザインが採用され、エンジン点検や整備が比較的容易に行えるよう配慮されています。運転席周りは当時の基準から見ても広めで、操作系がまとめられたダッシュボードや視界を確保しやすい大型フロントガラスなど、ドライバーの疲労を軽減する工夫が随所に取り入れられていました。
また、この時代はインフラ開発や地方の産業振興にともない、林道や山間地の道路整備が進められていた反面、まだ舗装率が低い地域も数多く残されていました。そうした場所での物資輸送や資材運搬において、K-FU633型の全輪駆動機構は大きな利点となり、雪道や泥濘地でも牽引力を発揮できる点が高く評価されました。自治体や企業の建設部門、あるいは災害派遣を担う公共機関などでも導入が進み、災害復旧作業や大規模工事の現場で貢献した例も少なくありません。
一方で、全輪駆動トラックは後輪駆動車と比べて構造が複雑であることから、製造コストや保守コストが上がりやすい面もありました。しかし、K-FU633型はその欠点を補って余りある汎用性を備え、実際に使用される現場からは「どんな路面でも走破できる」「長期間安定して稼働する」などの高い評価を得たと伝えられています。まさに、昭和後期の日本において、限られたインフラ環境を克服するために求められた“使える”トラックの代表格だったといえるでしょう。
総じて、昭和57年の日野K-FU633型全輪駆動トラックは、当時の日本が直面していたインフラ課題や物流ニーズに応えるべく投入された頼もしいモデルでした。その高い走破性と堅牢な設計は、工事現場や災害対応、林業など多岐にわたる現場で重宝され、国土開発や産業発展に寄与したのはもちろん、のちに続く4WDトラック開発の一つの指標ともなりました。現在では生産が終了しているものの、現存車両が示すそのタフさは、国産ディーゼル技術と全輪駆動システムの融合がもたらす可能性を証明し続けていると言えるでしょう。