私が古本屋になったのは2000年ですので、もう20年以上前。
その頃は電子書籍をみんな利用するようになってきていて、これからはみんな、電子書籍で本を読むようになるようになるから、古本屋の商売は厳しいよ、と言われることがよくありました。
そして2021年、今。
電子書籍は普及しましたね。
ウチの息子などもスマホでマンガをよく読んでいます。
そういう私も昨年はキングダム全巻を電子書籍で読みました。
電子書籍のメリットが紙よりも優れている点はいくつもあります。
・タブレットひとつに本が何冊、何十冊、何百冊と本が入る。
・文字や絵を拡縮できて、自分の見やすいサイズにできる。
・今読みたいと思ったら、購入、ダウンロード、すぐ読める。
・知らない単語をすぐに調べられる。
などなど。
しかし、紙の本の読者が電子書籍に移行したかというと決してそんなことはないということは統計にも出ていますね。
グラフを見てわかる通り、電子書籍の販売金額以上に活字離れが進んでいることの方が大きいようです。
通勤の電車の中の様子などを見てみるとよくわかりますね。
私の若い頃は本を読む人がほとんど。
文庫、新書、雑誌、マンガなどなど。
週刊誌が発売の日は網棚の上にその日発売の号が置かれていたものです。
しかし、今は電子書籍を読んでる人もいるにはいますが、スマホでSNSやゲーム、動画を見ている人が目立ちます。
電子書籍も含めて本が売れなくなったということでしょう。
それを受けてか新古書店と呼ばれる大型の古本屋は服や家電も請け負う総合リサイクルショップに変貌しています。
こうなると我々の古本の業界も衰退しているかと思われるでしょうが、意外とそんなことはありません。
業者間で開かれるプロの古本屋が集まっての業者市場の荷物は相変わらず定期的に開催されています。
新たに古本屋をはじめようという若い人もなくなる方、やめられる方を補うだけはいます。
理由は私達が扱っている本は先の統計に出てくるような本ではないからと私は分析しています。
私達古本屋が取り扱っている本は骨董的な価値がある本だったり、資料として必要なもの、コレクションとして集めたい本です。
統計に出てくる大量の本はどんな形であれど読めたらいい本。ブームで買ってみた本もあるかもしれません。
以前より古本屋業界全体の物量は減ったかもしれませんが、ゼロになるということはなく、これぐらいの量で維持されていくのかなという気がしています。
が、しかし。
実は最近、古本、古書の相場について調べ物をしていてそうでもないなと思うことがわかりました。
そうでもないというのは更に物量が減るという意味で悪いお知らせです。
戦史叢書という書籍があります。
1966年から1980年から朝雲新聞社から発行。
太平洋戦争の史料の公的な決定版といった書籍で全102巻。
古本の相場で揃いで20年前は100万円近くで売られていました。
しかし、最近は102巻揃っていても10数万円で購入できたりします。
古本価格の下落の理由は全巻オンラインで無料で読むことができるようになったからです。
http://www.nids.mod.go.jp/military_history_search/SoshoView?kanno=001
コレクションしたいというよりも研究資料として欲しい方がほとんどでしょうから、閲覧できれば、書籍を買う必要がないということになってしまいます。
社会全体としてはその方がいいんでしょうが、古本業界としては高値で売れるアイテムがなくなったということになります。
また極真空手の機関紙的な雑誌「月刊パワー空手」も全巻電子書籍として復活。
なんと1969年の極真会館が主催の第1回全日本空手道選手権大会のプログラムから1994年の第26回全日本空手道選手権大会プログラムまでが電子書籍になったとのこと。
そうなると月刊パワー空手、全日本空手道選手権大会のプログラムの相場は落ちるしかありません。
河合奈保子さんという昭和のアイドルは写真集が人気が高いのですが、近代映画社から発売になった写真集は2018年2019年に電子書籍として復活しています。
私は古本屋の懸念として、電子書籍は新たな紙の本の発売数が少なくなることが問題だとばかり思いこんできましたが、古本でしか読んだり見たりすることができなかった書籍が電子化されることで古本の需要が減ることの方が業界的には影響が大きそうなのです。
もちろん、どうしても紙がいい。発売された当時の状態で見たい、という需要はあるでしょうから、物量は減ってもある程度で維持されるとは思います。
しかし、ここで古本の業界の外の方に言いたいのは、本の処分は早めがいいですよということです。
ウチにはおじいちゃんが集めた戦史叢書が全102巻ある。あれを売ればかなりのお金になるはずだと思っていたら電子書籍が出てしまい、安くしか買取してもらえないなんてことになるからです。
今は高値買取がされているものでもこの先、同様なことが起きる可能性はあります。
特にコレクション要素、骨董要素がある本ではなく、全集、事典、叢書など資料として価値が高いものは注意が必要です。